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最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)198号 判決 1963年10月15日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小屋敏一の上告理由第一について。

所論乙第二号証の一は被上告人が上告人に本件土地を売渡した旨の私人作成の売渡証書と右証書による売買は登記を終了した旨の登記官吏の登記済の記入部分とが結合して記載されたものであつて、右私人作成の売渡書の部分は依然として私文書たる性質を失うものではない。原判決の「乙第二号証の一の成立の真正を認めるに足る証拠がない」とした判示は同号証の一のうちの右売渡証書のみに関するものであること明白である。所論は畢竟証拠の解釈を誤りこれを前提として原判決の違法をいうもので、すべて採用するに足らない。

同第二について。

一般の場合には、登記簿上の不動産所有名義人は反証のない限りその不動産を所有するものと推定すべきである(昭和三三年(オ)第二一四号同三四年一月一八日第一小法廷判決、民集一三巻一頁)けれども、登記簿上の不動産の直接の前所有名義人が現所有名義人に対し当該所有権の移転を争う場合においては右の推定をなすべき限りでなく、現所有名義人が前所有名義人から所有権を取得したことを立証すべき責任を有するものと解すのが相当である。

なお原審が所論の如く右登記手続に使用された委任状の提出を要求した事跡は記録上認められず、原判決において単に「委任状の存在も立証せられないし」というのみであるから、この点の所論は採用するに足りない。

してみれば、原判決が上告人の提出援用した証拠ではその主張する本件土地売買の成立を認定するに足らない旨判示したのは相当であつて、論旨は理由がない。

同第三について。

所論は先ず「被控訴人(上告人)の提出援用に係る全証拠資料をもつてしても、その占有の当初本件土地が被控訴人の所有に帰したと考えたことにつき無過失であつたことを認めるに足りない」とした原判示には、少くとも重要証拠についての判断理由の判示を欠き判断遺脱理由不備の違法があるというが、当事者の提出した証拠について裁判所がこれを排斥する場合に一々その排斥理由を判決に判示するを要しないことは当裁判所屡次の判例の示すとおりであるから、所論は採用するに足らない。

更に、所論は、乙第二号証の一は公文書であつてその成立の真正を推定されるべきものであるとの前提に立ち、上告人の占有の当初の無過失が肯定されるべきであると主張するが、所論の前提を採るをえないことは論旨第一について判示したとおりであり、その他の全証拠資料を以てしても占有の当初上告人において無過失であつたことは認められないとした原判決の判断は首肯するに足り、経験則違反は認められない。所論も採用することができない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判所 垂水克己 裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一 裁判官 横田正俊)

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